感想メモ

ひゃっほう

読了メモ 2023年3月分

2023年3月


帰ってからお腹がすいてもいいようにと思ったのだ/高山なおみ

エッセイらしいけどそもそもこの「高山なおみさん」が誰だか知らなかったんだけど、料理研究家だそうです。冒頭、入院する父を見舞いにいく新幹線で食べたお弁当や、台湾(香港だったかな?)映画で出てきた貧相な焼きそばが妙に美味しく見えた、みたいな話はすごく面白くて買ったんだけど、私はそもそもこの「高山なおみさん」の基礎情報を全く知らなかったので、エッセイだから「この人結婚してるんだな」「ん?1人暮らししてるな」「ん??離婚したか?」「ん??でも夫って言ってるな」「ん?????離婚したか????」「ん???????????」ってなって終わった。知っている人のエッセイを読もう!という反省。

 

 

世にも奇妙な君物語/朝井リョウ

世にも奇妙な物語を自分流に書きたい!と思ったらしい朝井リョウの短編集。

読んでいて思ったんだけど、内容が結構「俗っぽい」というと言い方がアレだけど、たとえば収録されている「リア充裁判」では、「就活でどのくらい充実した学生生活を過ごしたか(どんくらいリア充か)アピールしなきゃいけない制度が作られる」という話があったりする。設定も登場人物も、作中で言及されるリア充の典型的なイベントや行為もセリフも全部が現代っぽ~いので、普段からほぼセリフがなくて世界観の説明がない純文学(小川洋子)とか犯罪者の話しかしてない純文学(中村文則)とか子供の成長を見守る昭和の教師の話ばっか書いてる純文学(灰谷健次郎)とかしか読んでいない私からすると十分「俗っぽい」と感じられる。

最後に収録されてる短編「脇役バトルロワイヤル」だと、デスゲームみたいな内容になってるし、とにかくエンタメ。テレビ的な内容というべきなのか、「実写ドラマ化して特番で流したら視聴率とれそうやな」「ネトフリで限定配信してそうやな」みたいな雰囲気だった。

そして気づいた。私は「現代の若者が主人公で、セリフに若者言葉が使われたり流行りのものが描写されたりすると『俗っぽい』と感じてちょっと嫌になる」ということに。

やっぱり小川洋子村に帰ります。

 


迷宮/中村文則

とにかく要素が多すぎる。どうしたらいいの。

これも、中村文則を勧めてきた友人が「遮光の次にキモいのはこの本だよ」と言ってプレゼントしてくれた。キモい本しか勧めてこねぇなあいつ。

主人公は普通の人で(そもそも中村文則の本に普通の人なんていないけど)たまたまバーで再会した同郷の女性が「一緒に住んでた男が消えた」みたいな話をしだして、興味もっちゃって、その女性にも情がわいちゃって……みたいなことをしてたら、その女性が実は「昔あった未解決の猟奇殺人事件の唯一の生き残りだった」っていう展開で、主人公はそこにも興味わいちゃって、調べちゃって、どんどんのめり込んじゃって……な話。

この猟奇殺人っていうのは、父、母、兄を殺された事件なんだけど、母の死体の周りには綺麗な折り鶴が撒かれていて、しかも密室だし、何が何やら分からんね!という事件。主人公は、この母の死体の写真を見て、あまりの美しさに飲み込まれていくんですけども……まぁキモかったね。読み終わったあとの疲労感はんぱじゃなかった。

 


掏摸(スリ)/中村文則

タイトル通り、スリの話。

スリでお金を稼いで生きてる主人公が、裏社会のヤバイやつに目をつけられて、利用されて、どんどんヤバイことになっていく……んだけど、途中で男の子と出会う。母親に指示されて万引きをしている男の子で、主人公は見かねて万引きのコツを教えたり(んなもん教えるな)何かを買ってあげたりする。徹底的に犯罪しかしてない話だったけど、この男の子の部分だけ主人公が人間らしくなって、そこからどんどん崩れていく感じが「に、人間~!!!」ってなる。最後はまだ希望がある。

 

世界の果て/中村文則

短編集だった。中村文則の短編集は、本当に意味が分からん話しかなかった。読み終わったのにほとんどの話を思い出せないくらい意味分からんかった。

 


私の消滅/中村文則

主人公がとある目的で他人の身分を買う話。買ったのは「小塚」という男の身分で、主人公は小塚の身分証を手に入れて小塚に成り代わろうとする。だけど小塚の手記を見つけたので読んでみると「このページをめくったらあなたの人生がすべて変わってしまうかもしんない……」的なことが書かれており!!!???みたいな話。

もうね~~最悪。最悪の話。もう~~今まで読んだ中村文則の本のなかで一番「異世界転生で本の主人公になるとしたらこの本は嫌だ」と思ったね。善人が一人も出てこないし、病んでるやつしかいない(中村文則は基本的にそう)すんげぇ面白かった。すんげぇ最悪だから。

これ、ネタバレになるから詳しく言えないんだけど、この小塚が手記の中でとある死刑囚の事例を出して精神分析している部分があるんだけど、普通に実在の人物の実在の事件だし、「こんなこと書いていいんだ……」って思った(あとがきで中村文則本人が何か言ってた気がする)

もうとにかく読んでもらった方が早い。読後めちゃくちゃ「最悪だったな……」って思う。でも中村文則には珍しく、終わり方が切なくてやるせない感じだった。だからといってお前らのやったことは消えないが……?とは思ったけどね!!!!!!

 

 

 

読了メモ 2023年2月分

2023年2月


アヒルと鴨のコインロッカー伊坂幸太郎

あらすじが説明できない。強いて言えば「大学入学のタイミングで田舎から出てきた主人公が、引っ越し先のお隣さんの怪しいイケメンに『広辞苑を盗みにいこう~よ』と言われて、駄目だよそんなこと~と言いつつ流されるままに本屋に襲撃にいく」なんだけど、これって一部分にすぎなくて、たしかに物語の根幹ではあるけど、う~ん!!!!これの3倍は要素がある。とにかく複雑だった。びびっちゃう。

最後の方で、序盤に張られてた伏線をワッサワッサと回収していくのでウワ~気持ちいい~!!!!!!ってなる。両腕でかき集めてんのかと思ったわ。「このセリフってあれじゃん!!」ってなって何度もページを戻って確認しては「ぎゃ~っ!!!!」ってなる。オチも切なくて秀逸。さすが、大人気なだけありますわ、伊坂幸太郎

河崎、好きすぎる。河崎……。

 


地球星人/村田沙耶香

とにかくマジでキモかった。いい意味で、と言ってあげたいけど普通に悪い意味でキモい。キモくて面白かった。

主人公は女性で、仕事とか家庭とかあらゆる「社会」の仕組みに疑問を持っていて、というかキモいなと思ってて受け付けられなくて、次第に社会を「人間を作る工場」と思うようになり、そのうち「自分は余所の惑星から来た生物で、この星で生まれたわけではない。地球星人に監視・支配されている」と思うようになる話。それに同調する人や、「馬鹿なこと言ってないで、いい年なんだから早く結婚して子供を産め」と言ってくる人や、まぁとにかく「ウワァ~!!!!!」のオンパレード。最終的に「そうはならんやろ!!!!」という終わりになるけど、その終わり方がめちゃくちゃ怖い。

コンビニ人間読んだときも思ったけど、この人、人間嫌いすぎだろ。人間が憎くないと書けないだろこんなの。

 

東京百景/又吉直樹

又吉のエッセイだった。上京してからのいろんな思い出の場所と、そのエピソードを100個書いてある。すごい面白かった。やっぱ芸人さんの文章っていいですね。

文章もそうなんだけど、そもそものエピソードが「そんなこと普段ねーだろ」みたいなことばっかり。類は友を呼ぶというか、面白い人には面白いことが集まるんだなとちょっと羨ましくなる。まぁ、些細なオモシロを面白い文章にする力があるのも羨ましいよ。

 

去年の冬、きみと別れ中村文則

こりゃあすげ~やとなります。

とある死刑囚(女を二人焼き殺した)の本を書くために取材してるライターが、その死刑囚の姉と会ったりして徐々に事件に巻き込まれていく……みたいな話なんだけど、いや、まぁ事件は終わってるんだけど、尾を引いてる何かが……みたいな。うん。あんまり言うと面白くなくなる本。記憶消してもう一回読みたい。

叙述トリックなんだけど、わざと「あれ?おかしいな…」くらいは気づけるような書き方をしてくれるから、読んでる途中もずっと「あれは何だったんだ?」って気にしつつ楽しめるから親切やなと思う。でも気づいてもらえないことも多いようで、中村文則は自分で張った伏線をあとがきで解説するという面白い男。そんな同人誌みたいなあとがきある??

 


何もかも憂鬱な夜に/中村文則

このあたりから中村文則の作品の共通項が「主人公が男」「主人公が犯罪者か、もしくは犯罪者を調査(観察)する人物」「主人公の幼少期の家庭環境がよくない」「主人公が喫煙者」「主人公が未成年の場合、いつも性的欲求に駆られている。成人の場合は「衝動的な性的欲求に駆られて破滅しようとしている」と自分を思い込ませて行為に及ぼうとする」だと気づき始める。中村文則の中で性欲が何かのキーポイントになってるらしい。あと、主人公がよく酒の飲みすぎで二日酔いになってる。あとすげぇ路上喫煙してる。

主人公は看守で、とある死刑囚の担当についてる。その死刑囚はまだ若くて、控訴もせずに死刑を受け入れている。で、なんとなく主人公はその死刑囚にシンパシーを感じている?というか親身になりたいと思っている?というか微妙な距離感なんだけど、まぁその死刑囚を見てて自分のいろんな過去を想起してグッタリしていく……みたいな話。読んでるこっちがグッタリする。

 

 

読了メモ 2023年1月分

2023年1月


夜明けの縁をさ迷う人々/小川洋子

短編集。小川洋子の短編集はめっちゃいい。でも短編集って感想書きにくいな!

少年の草野球が練習している傍らで、椅子を積んで逆立ちしたりする曲芸師がいる話とか(この少年は曲芸師が気になってしゃーない)、知り合いのツテで住むことになった山奥の別荘がヤバい近隣住民に管理されててヤバい感じになる話とか(本当にやばい)、エレベーターに住んでる少年の話とか、楽器に塗りこむと音がよくなるすごい涙を売る女の人の話とか、そういう話がある。ちょっとゾッとするのもあって「小川洋子ってこういうの書くんだ。めずらし~」と思った。もしかしたらよくあるのかもしれないけど。

小川洋子の話って大体「世界観の説明がない(舞台はどの国なのか、主人公の国籍とかが決まっていない、特定できる情報もない)」「謎な部分の説明や解説がほぼされない(だんだん記憶が消える島に住んでる作家の話があるけど、なんで記憶が消えるのか説明はない)」「主人公に名前がない」「起承転結の起伏があんまりない」「セリフがほぼない」が共通としてあるな~と思うし、長編でも短編でも同じような雰囲気なんだけど、この短編集はわりといろんなことがハッキリしてた。

読んでる人で想像する景色やにおいが割りと同じになりそうな気配がした。

 

貴婦人Aの蘇生/小川洋子

ロシア人の義伯母さんと住むことになった主人公(大学生・たぶん女)と、その恋人のニコ(強迫障害に悩む大学生・たぶん男)の話。その伯母さんの夫は剥製収集家で、死後にありえん量の剥製とでけぇ家が残り、義伯母さんだけじゃ生活がままならないので主人公が同居するのだが、剥製狙いの胡散臭い男が来たり、義伯母さんがロマノフ王朝の生き残りかもしれなかったりするけど、全体的に冬から春になる時の風みたいに穏やかで涼しげなお話。おもしろかった。

全体的に、小川洋子にしてはセリフが多いような印象。あと、小川洋子にありがちな「部屋の中にあるものや持ち物等、めちゃくちゃ羅列する」が超あった。屋敷のプールを掃除するときの底にたまってたゴミを「絵筆、シャワーキャップ、トイレットペーパーの芯、マニキュアの蓋……(10個くらい続く)」とか、とにかくこの「めっちゃ羅列する」が超出てくる。テキトーにページ開けば三回に一回は当たるくらい出てくる。出てくるたびに「ま~たやってら」と思ってた。

このニコがめちゃくちゃいいヤツで、愛さずにはいられん。幸せってこういう人のところに訪れるんだなと思う。優しさが服を着て歩いてる人。

 

注文の多い注文書/小川洋子クラフト・エヴィング商會

「この世に存在しないものも売ってくれる店」に、注文しに来る客の話。小川洋子が「客側の注文書風の物語」を書き、クラフト・エヴィング商會が「その注文品を探してきて納品する話」を書き、そこに小川洋子が「納品された品物を受け取った客の話」を書くという構成。これがめっっっっっちゃ面白い。

小川洋子が書いた「客」は、実際にある小説に出てくる架空のものを注文してくる。例えばJDサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を読んだ客が「バナナフィッシュの耳石」を注文してきたりする。この注文の場合「サリンジャーのファンで、サリンジャーに関するものを収集する団体があり、その会長が注文してきた」という設定。すげぇ面白い。クラフト・エヴィング商會はこの物語のために作られた名前とかじゃなく、実際にその名前で活動しているクリエイター集団?(二人しかいない)らしく、小川洋子の書いた架空の客の注文をもとに品物を手に入れて(という設定だけど、創って)写真を載せて、「これはこんな経緯で手に入れましたよ」と物語を書いてくれてる。そして小川洋子が客側の「受け取りました。受け取ってからこんなことがありました」と書いて返す。

とにかくえげつない面白い。

 

斜陽/太宰治

戦後没落してしまった元貴族の一族で、母と二人暮らし(弟は途中から戦争から帰ってくる)の主人公(女性)が、とある男性に恋をする話。なんかもうあんまり覚えてないけど、最後まで読んだとき「これってめでたしめでたしなのか……?」と思った。めでたいと言われればそうなんだろうけど、めでたくもない気がする。

とにかく最後の方の弟、マジでつらい。母もつらい。

文豪たちの本ってあんまり読んでないんだけど(芥川龍之介蜘蛛の糸とか、開始3行でやめた)なんか太宰だけは読みやすさ感じるよな。でも「太宰くんさぁ……」ってなる話ばっかりやな。

 

遮光/中村文則

恋人を失った主人公が、恋人の死体から小指を切り取って瓶に入れて持ち歩く話。とにかく終始ずっときしょい。

主人公が何か人間らしさを演じようとしているというか、意識して情緒を乱しているような節がある(安直な言い方をするとサイコパスなやつ)んだけど、恋人が死んでから確実に崩壊していく感じが気持ち悪~~~い。中村文則が大好きな友人が「気持ち悪い本といえばこれ。お前も根暗だし好きだと思う」と言いながら勧めてきたけど、めちゃ面白かった。ただ読み返す気にならない。

ビビるんですが、ここから中村文則にハマって一気に7冊読みました。そして追加で買い込んでいます。好きすぎだろ。