感想メモ

ひゃっほう

読了メモ 2023年1月分

2023年1月


夜明けの縁をさ迷う人々/小川洋子

短編集。小川洋子の短編集はめっちゃいい。でも短編集って感想書きにくいな!

少年の草野球が練習している傍らで、椅子を積んで逆立ちしたりする曲芸師がいる話とか(この少年は曲芸師が気になってしゃーない)、知り合いのツテで住むことになった山奥の別荘がヤバい近隣住民に管理されててヤバい感じになる話とか(本当にやばい)、エレベーターに住んでる少年の話とか、楽器に塗りこむと音がよくなるすごい涙を売る女の人の話とか、そういう話がある。ちょっとゾッとするのもあって「小川洋子ってこういうの書くんだ。めずらし~」と思った。もしかしたらよくあるのかもしれないけど。

小川洋子の話って大体「世界観の説明がない(舞台はどの国なのか、主人公の国籍とかが決まっていない、特定できる情報もない)」「謎な部分の説明や解説がほぼされない(だんだん記憶が消える島に住んでる作家の話があるけど、なんで記憶が消えるのか説明はない)」「主人公に名前がない」「起承転結の起伏があんまりない」「セリフがほぼない」が共通としてあるな~と思うし、長編でも短編でも同じような雰囲気なんだけど、この短編集はわりといろんなことがハッキリしてた。

読んでる人で想像する景色やにおいが割りと同じになりそうな気配がした。

 

貴婦人Aの蘇生/小川洋子

ロシア人の義伯母さんと住むことになった主人公(大学生・たぶん女)と、その恋人のニコ(強迫障害に悩む大学生・たぶん男)の話。その伯母さんの夫は剥製収集家で、死後にありえん量の剥製とでけぇ家が残り、義伯母さんだけじゃ生活がままならないので主人公が同居するのだが、剥製狙いの胡散臭い男が来たり、義伯母さんがロマノフ王朝の生き残りかもしれなかったりするけど、全体的に冬から春になる時の風みたいに穏やかで涼しげなお話。おもしろかった。

全体的に、小川洋子にしてはセリフが多いような印象。あと、小川洋子にありがちな「部屋の中にあるものや持ち物等、めちゃくちゃ羅列する」が超あった。屋敷のプールを掃除するときの底にたまってたゴミを「絵筆、シャワーキャップ、トイレットペーパーの芯、マニキュアの蓋……(10個くらい続く)」とか、とにかくこの「めっちゃ羅列する」が超出てくる。テキトーにページ開けば三回に一回は当たるくらい出てくる。出てくるたびに「ま~たやってら」と思ってた。

このニコがめちゃくちゃいいヤツで、愛さずにはいられん。幸せってこういう人のところに訪れるんだなと思う。優しさが服を着て歩いてる人。

 

注文の多い注文書/小川洋子クラフト・エヴィング商會

「この世に存在しないものも売ってくれる店」に、注文しに来る客の話。小川洋子が「客側の注文書風の物語」を書き、クラフト・エヴィング商會が「その注文品を探してきて納品する話」を書き、そこに小川洋子が「納品された品物を受け取った客の話」を書くという構成。これがめっっっっっちゃ面白い。

小川洋子が書いた「客」は、実際にある小説に出てくる架空のものを注文してくる。例えばJDサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を読んだ客が「バナナフィッシュの耳石」を注文してきたりする。この注文の場合「サリンジャーのファンで、サリンジャーに関するものを収集する団体があり、その会長が注文してきた」という設定。すげぇ面白い。クラフト・エヴィング商會はこの物語のために作られた名前とかじゃなく、実際にその名前で活動しているクリエイター集団?(二人しかいない)らしく、小川洋子の書いた架空の客の注文をもとに品物を手に入れて(という設定だけど、創って)写真を載せて、「これはこんな経緯で手に入れましたよ」と物語を書いてくれてる。そして小川洋子が客側の「受け取りました。受け取ってからこんなことがありました」と書いて返す。

とにかくえげつない面白い。

 

斜陽/太宰治

戦後没落してしまった元貴族の一族で、母と二人暮らし(弟は途中から戦争から帰ってくる)の主人公(女性)が、とある男性に恋をする話。なんかもうあんまり覚えてないけど、最後まで読んだとき「これってめでたしめでたしなのか……?」と思った。めでたいと言われればそうなんだろうけど、めでたくもない気がする。

とにかく最後の方の弟、マジでつらい。母もつらい。

文豪たちの本ってあんまり読んでないんだけど(芥川龍之介蜘蛛の糸とか、開始3行でやめた)なんか太宰だけは読みやすさ感じるよな。でも「太宰くんさぁ……」ってなる話ばっかりやな。

 

遮光/中村文則

恋人を失った主人公が、恋人の死体から小指を切り取って瓶に入れて持ち歩く話。とにかく終始ずっときしょい。

主人公が何か人間らしさを演じようとしているというか、意識して情緒を乱しているような節がある(安直な言い方をするとサイコパスなやつ)んだけど、恋人が死んでから確実に崩壊していく感じが気持ち悪~~~い。中村文則が大好きな友人が「気持ち悪い本といえばこれ。お前も根暗だし好きだと思う」と言いながら勧めてきたけど、めちゃ面白かった。ただ読み返す気にならない。

ビビるんですが、ここから中村文則にハマって一気に7冊読みました。そして追加で買い込んでいます。好きすぎだろ。